蒙求和歌 ====== 第12第2話(172) 簫史鳳台 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 簫史鳳台 ** 簫史は、秦の穆公の時の人なり。常に心を澄ましつつ、簫を吹きけり。孔雀、飛び来たりて、羽をかへて舞ひけり。すべて、簫史が声を聞く人、涙をもよほさぬなし。 穆公の女(むすめ)に弄玉といへる人、情け深く、色を知れる心にて、簫史が簫の声にめでて、忍びて逢ひ給ひにけり。二心(ふたごころ)なくて、年月(としつき)を送り迎へけり。 簫史、弄玉に簫を教ふるに、たどる所なく学び得てけり。鳳鳴の曲を吹くに、鳳凰飛び来たりて、かの上に棲みて、これを聞きけり。すなはち鳳台を作られけり。 もろともに台に上(のぼ)りて。月の光の蒼々たる夜、冬の空のものあはれなるに、簫を吹きけり。鳳凰、この二人をいざなひて、遥かに飛び去りにけり。その跡に、鳳女祠を建てられにけり。   笛の音を雲のいづくに誘ひけむ月に台(うてな)のあとを残して ===== 翻刻 ===== 簫史鳳台  〃〃ハ秦ノ穆公ノ時ノ人也ツネニ心ヲ/スマシツツ簫ヲフキケリ孔雀 トヒキタリテハネヲカヘテマヒケリスヘテ簫史カコヱヲキク 人ナミタヲモヨヲサヌナシ穆公ノムスメニ弄玉ト云ヘル人ナ サケフカクイロヲシレル心ニテ簫史カ簫ノコヱニメテテシノヒテ アヒタマヒニケリフタ心ナクテトシ月ヲヲクリムカヘケリ簫 史弄玉ニ簫ヲヲシウルニタトル所ナクマナヒエテケリ鳳 鳴ノ曲ヲフクニ鳳凰トヒキタリテカノウヱニスミテコレヲキキ ケリスナハチ鳳台ヲツクラレケリモロトモニ台ニノホリテ月ノ 光ノ蒼々タルヨフユノソラノモノアハレナルニ簫ヲフキケリ 鳳凰コノ二人ヲイサナヒテハルカニトヒサリニケリソノアトニ 鳳女祠ヲタテラレニケリ/d2-28r フエノネヲクモノイツクニサソヒケム 月ニウテナノアトヲノコシテ/d2-28l