蒙求和歌 ====== 第11第6話(156) 隠之感隣 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 隠之感隣 ** 呉の隠之((呉隠之))、兄弟(おとと)、丹陽にあり。 母におくれて後、あながちに歎き悲しびけるほどに、絶え入りにけり。道行き人、来たり集まりて、あはれみ、助けて((「助けて」は底本「タケテ」。書陵部本「資て」により訂正。))息出でにけり。 隣の里に韓康伯といふ人あり。その母、隠之が泣く声を聞くに、親を思ふ心の浅からぬことを、「あはれ」と思ひ知りにけり。康伯を呼びて、「なんぢ、選官たらむときは、隠之が心したらむ輩(ともがら)を用ゐるべきなり」と言ひけり。   聞きわたる隣の里もかなしきは梢(こずゑ)しぐるる松風の音 ===== 翻刻 ===== 隠之感隣  呉ノ隠之アニヲトト丹陽ニ有リ母ニ/ヲクレテ後アナカチニナケキカナシヒケル ホトニタヘイリニケリ道ユキ人キタリアツマリテアハレミタケテ イキイテニケリトナリノサトニ韓康伯ト云人有ソノ母 隠之カナクコヱヲキクニヲヤヲ思フ心ノアサカラヌコトヲアハ レト思ヒシリニケリ康伯ヲヨヒテ汝チ選官タラムトキハ 隠之カ心シタラムトモカラヲモチヰルヘキナリト云ケリ キキワタルトナリノサトモカナシキハコスヱシクルル松風ノヲト/d2-20l