蒙求和歌 ====== 第11第4話(154) 陵母伏剣 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 陵母伏剣 ** 陵母とは、王陵が母なり。 漢祖((劉邦))と、項羽と、争ひ戦ふ時、王陵、党を結びて、数千の兵(つはもの)を集めて、漢祖の方(かた)につきぬ。 項羽、「王陵を聘(よば)はむ」と思ふ心深し。謀りて、陵母を取り籠めて、王陵を聘ぶに、陵母、ひそかに王陵がもとへ使をやりて、「わが身、かくてあればとて、いたみ思ふべからず。漢祖のために、忠を極めて、二心(ふたごころ)を見え奉らざれ」と言ひやりつ。 「わが身、しばしもかくてあらば、王陵、われを思はむゆゑに、心弱き気色もぞ、人に見ゆる」とて、陵母、泣く泣く剣の上に伏して、命を失ひてけり。   ながらへばわれゆゑものや思ふとて子のため捨つる命なりけり ===== 翻刻 ===== 陵母伏釼  陵母トハ王陵カ母ナリ漢祖ト項羽トア/ラソヒタタカフ時王陵党ヲムスヒテ 数千ノツハモノヲアツメテ漢祖ノカタニツキヌ項羽王陵ヲ 聘(ヨハ)ハムト思心フカシハカリテ陵母ヲトリコメテ王陵ヲヨ フニ陵母ヒソカニ王陵カモトヘ使ヲヤリテワカミカクテアレハトテ イタミ思フヘカラス漢祖ノタメニ忠ヲキハメテフタ心ヲ ミエタテマツラサレトイヒヤリツワカミシハシモカクテアラハ 王陵ワレヲ思ハムユエニ心(ココロ)ヨハキケシキモソ人ニミユルトテ 陵母ナクナク釼ノウヘニフシテ命ヲウシナヒテケリ ナカラヘハワレユエモノヤ思フトテコノタメスツル命チナリケリ/d2-19l