蒙求和歌 ====== 第7第2話(102) 博望尋河 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 博望尋河 ** 漢の武帝、張騫を使として((「使」底本「□カヒ」、一字虫損。諸本により補う。))、河((黄河))の源(みなかみ)を極めにつかはしけり。 遥かに十万里の波をしのぎて、牽牛国に至りて、織女(たなばたつめ)の紗(うすもの)洗ふに会ひぬ((「会ひぬ」は底本「ア□ヌ」、一字虫損。諸本により補う。))。織女、怪しみ問ふに、「漢帝の使として、河の源を極めに((「極めに」は、底本「キハ□ニ」、一字虫損。諸本により補う。))、詣で来つるなり」と言ふ。織女のいはく、「河の源は極むべきことかたし。これより奥を思はば、なんぢ、命あるべからず。すみやかに故郷へ帰りて、漢帝に見え奉らむことを思へ」と言ふ。 さて、一つの浮き木に乗せて、一つの石をぞ与へける。張騫、これを得て、ことなく帰りにけり。 漢帝、封(ほう)じて、博望侯と為す。東方朔、この石を見て、織女の支機石となむ言ひける。   天の川浮き木に帰る道なくばなほこそ聞かめ雲のみなかみ ===== 翻刻 ===== 博望尋河 漢武帝張騫ヲ□カヒトシテ河ノミナカミヲキハメニツカハシ ケリハルカニ十万里ノ浪ヲシノキテ牽牛国ニイタリテタナハタ/d1-50r ツメノ紗(ウスモノ)アラフニア□ヌ織女アヤシミトウニ漢帝ノツカヒトシ テ河ノミナカミヲキハ□ニマウテキツルナリト云織女ノ云ク河ノ 源ハキハムヘキコトカタシコレヨリヲクヲヲモハハナムチイノチ(命) アルヘカラススミヤカニ故郷ヘカヘリテ漢帝ニミヱタテマツ ラムコトヲヲモエトイフサテヒトツノウキキニノセテヒトツノ石ヲ ソアタヘケル張騫コレヲエテコトナクカエリニケリ漢帝封(ホウ)シテ 為ス博望侯ト東方朔コノ石ヲミテ織女ノ支機石トナム云ヒケル アマノカハウキキニカヘルミチナクハナヲコソキカメクモノミナカミ/d1-50l