蒙求和歌 ====== 第6第6話(96) 春申珠履 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 春申珠履 ** 楚の孝烈王、黄歇を相とす。春申君と言へり。 趙の平原君が使(つかひ)、楚に来れり。瑇瑁(たいまい)の簪(かむざし)、刀剣釼の鞘(さや)に珠玉を飾りて、春申君が家にのぞめり。したり顔なる気色にて、楚国に誇らむと思へり。 時に、春申君が家に、三千余人の客あり。その上客、みな玉の沓を履けり。堂上光り、門前のよそ目を驚かし、心を動かせり。平原君が使、これを見て、おほきに((「おほきに」は底本「をほ□□」、二字虫損。諸本により補う。))恥ぢて、頭(かうべ)を垂れけり。   旅人の心のうちも驚きき珠を踏みける沓の響きに ===== 翻刻 ===== 春申珠履(リ)楚ノ孝烈王黄歇ヲ相トス春申君ト云リ趙 平原君カ使ヒ楚ニ来レリ瑇(タイ)瑁(マイ)ノカムサシ刀釼ノサヤニ珠玉ヲ カサリテ春申君カ家ニノソメリシタリカヲナルケシキニテ楚 国ニホコラムトヲモヘリ時ニ春申君カ家ニ三千余人ノ客アリ ソノ上客ミナ玉ノクツヲハケリ堂上ヒカリ門前ノヨソメヲヲトロ カシ心ヲウコカセリ平原君カ使ヒコレヲミテヲホ□□ハ チテカウヘヲタレケリ/d1-47l タヒ人ノ心ノウチモヲトロキキタマヲフミケルクツノヒヒキニ/d1-48r