蒙求和歌 ====== 第5第9話(79) 衛后髪鬒 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 衛后髪鬒((底本「衛后髪鬢」。典拠により訂正)) ** 漢の武帝の衛皇后、字(あざな)は子夫。もとは平陽公主の家の歌うたひなり。髪多くして、黒し。 帝((底本「をやけ」と読み仮名あり。))、公主の家を過ぎ給ふに、子夫が声の色にめでて、車に取り乗せて、帰り給ひにけり。公主、出だし立てて、背中を撫でていはく、「御心ざし深からむ後に、われを忘るな」とぞ聞こえける。 後に后に立ちて、三男一女を生みてけり。時の諺(ことわざ)にいはく、「男を生みても喜ぶことなかれ。女を生みても怒(いか)ることなかれ。衛子夫を見ずや」とぞ言ひける。   なほざりに思ひそめてし黒髪の心長くやむすぼほれける ===== 翻刻 ===== 衛后髪鬢 漢ノ武帝ノ衛皇后アサナハ子夫モトハ平陽公主ノ家ノ哥 ウタヒナリカミヲホクシテクロシ帝(ヲヤケ)公主ノ家ヲスキ給ニ子夫 カコヱノ色ニメテテ車ニトリノセテカヘリ給ニケリ公主イタシ タテテセナカヲナテテ云ク御心サシフカカラムノチニワレヲワスルナト/d1-39l ソキコエケル後ニキサキニタチテ三男一女ヲウミテケリ時ノ コトハサニ云ク男ヲウミテモヨロコフコトナカレ女ヲウミテモイカルコト ナカレ衛子夫ヲミスヤトソイヒケル ナヲサリニヲモヒソメテシクロカミノココロナカクヤムスホヲレケル/d1-40