蒙求和歌 ====== 第5第7話(77) 雍伯種玉 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 雍伯種玉 ** 雍伯は陽公が字(あざな)なり。つねに美漿((底本ママ。書陵部本二本も同じ。『捜神記』他「義漿」で、無料で施すお茶のこと。))まうけて、道行き人に与へて、三年を継げり。 人来て、漿を飲み終りて、懐(ふところ)より石子一舛を出だして、与へていはく、「これなむ玉(たま)の種(たね)なり。蒔きて良き玉得べし。また、好女((底本「かをよき」と傍書))を得べし」と言ひて去りぬ。また、陽公、これを植ゑて、玉田とす。 時に、北平の徐氏といふ人、おほきに富みて、好女のいまだ((「いまだ」は底本「だ」なし。諸本により補う。))嫁がざるあり。陽公、行きて乞ふに、徐氏、笑ひて、「玉を一双得させば与へむ」と言へり。陽公、すなはち玉田の玉((底本「玉田王」。諸本により訂正。))を与へけり。徐氏、驚きて((「驚きて」は底本「□トロキテ」で一字虫損。諸本により補う。))女(むすめ)をあはせてけり。 北平陽氏は、これその後(のち)なり。   手に汲みし雫(しづく)の末のしるべかなつひに逢瀬の井出の玉水 ===== 翻刻 ===== 雍(ヰヨウ)伯(ハク)種(シヨウ)玉(キヨク)/d1-38r 雍伯ハ陽公カアサナナリツネニ美漿マウケテミチユキ人ニ アタヘテ三年ヲツケリ人来テ漿ヲノミヲハリテフトコロヨリ石 子一舛(斗イ)ヲイタシテアタヘテ云クコレナムタマノタネナリマキテ ヨキ玉ウヘシ又好女(カヲヨキ)ヲウヘシト云テサリヌ又陽公コレヲウヘテ玉 田トス時ニ北平ノ徐氏ト云人ヲホキニトミテ好女ノイマトツカサル アリ陽公ユキテコウニ徐氏ワラヒテ玉ヲ一雙エサセハアタエムト 云ヘリ陽公スナハチ玉田王ヲアタヘケリ徐氏□トロキテムスメ ヲアハセテケリ北平陽氏ハコレソノノチナリ テニクミシシツクノスヘノシルヘカナツヒニアウセノヰテノタマミツ/d1-38l