蒙求和歌 ====== 第3第8話(43) 廉范五袴 蘭 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 廉范五袴 蘭(ふぢばかま) ** 廉范、蜀郡太守に移りて、ことを行ふに、国、豊かに((底本「国ニ豊」。「に」を衍字をみて削除。))、民、安らかならむことをのみ思へり。 前(さき)の使ひは、ことにふれて国を乱りけり。夜、火を防ぐにも、人の煩ひをなしけり。廉范は、前(さき)の政(まつりごと)を改めて、人をあはれぶ心深かりければ、家々に水をまうけて、火を防がしむれば、人の煩ひなし。 時に民、歌ひていはく   廉叔度来何暮。不禁火人安措。昔日無一襦。今有五袴。 >廉叔度、来たれること何ぞ暮(おそ)き >火を禁ぜず、人安(いづくん)ぞ措(おきどころ)あらむ >昔日(むかし)、一襦無かりき >今は五の袴有り((底本の送り仮名により訓読した。))   日にそへて秋のあはれはおほえ山いくのともなき藤袴(ふぢばかま)かな ===== 翻刻 ===== 廉范五袴 蘭 廉范蜀郡大守にうつりてことををこなふに国にゆたかにたみ やすらかならむことをのみをもへりさきのつかひはことにふれて 国をみたりけりよる火をふせくにも人のわつらひをなしけり 廉范はさきのまつりことをあらためて人をあはれふ心ふ かかりけれはいゑいゑにみつをまうけて火をふせかしむれは人のわつ らひなしときにたみうたひて云く廉叔度(と)来(きたれること)何暮(をそき)不(す) 禁(きむ)火(を)人安(いつくんそ)措(をきところあらむ)昔日(むかし)無(りき)一襦(たきぬ)今(は)有(り)五(の)袴(はかま) 日にそへて秋のあはれはをほへやまいくのともなきふちはかまかな/d1-24l