蒙求和歌 ====== 第2第12話(32) 田単縦牛 蚊遣火 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 田単縦牛((一般的な『蒙求』は「田単火牛」。書陵部本古註蒙求に「縦牛」とある。国会図書館本『付音増広古註蒙求』は「焼牛」)) 蚊遣火(かやりび) ** 田単、城を守りて、燕の軍(いくさ)を防ぐに、牛千頭を取りて、赤きかとりに五色に描きて着せて、角に油をそそげり。その上に兵刃作りて、尾に葦を束(つか)ねて、その先に火を点(つ)けて、夜、牛を放ちて、壮士五十人を後(しり)に立て、追はしむるに、千頭の牛、火の熱くなるにしたがて、猛(たけ)り怒(いか)りて、燕の軍の中に走り乱れて入るに、兵(つはもの)しかしながら騒ぎまどふ。竜(たつ)かとのみと見えける。牛の当る所、死傷せずといふことなし。 田単に賞に行はれて、平候君((底本ママ。諸本同じ。安平君が正しい。))とす。   難波潟葦折りくぶる蚊遣火の((「蚊遣火(かやりび)」は底本「カカリヒ」。諸本により訂正。))煙(けぶり)をうしと思ひけるかな ===== 翻刻 ===== 田単縦牛 蚊遣火(カヤリヒ) 田単城ヲマモリテ燕ヱムノイクサヲフセクニ牛千頭ヲ取テアカ キカトリニ五色ニヱカキテキセテツノニアフラヲソソケリソノ ウヘニ兵刃ツクリテ尾ニ葦ヲツカネテソノサキニ火ヲツケテ 夜牛ヲハナチテ壮士五十人ヲシリニタテヲハシムルニ千頭ノ 牛火ノアツクナルニシタカテタケリイカリテ燕ノイクサノ中ニ/d1-19r ハシリミタレテイルニツハモノシカシナカラサハキマトウ龍(タツ)カト ノミトミエケル牛ノアタルトコロ死傷セスト云事ナシ田単ニ 賞ニヲコナハレテ平候君トス ナニハカタアシヲリクフルカカリヒノケフリヲ牛ト思ケルカナ/d1-19l