蒙求和歌 ====== 第2第11話(31) 卞和泣玉 蝉 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 卞和泣玉 蝉 ** >此説異説尤多 楚人卞和、楚山のうちにて、一つの玉璞(あらたま)を得て、武王に奉る。玉造りに見せらるるに、「石なり」と申す。怒(いか)りて、卞和が右の足を切られぬ。 後に、文王、位につき給ひぬ。また、卞和、この玉を奉る。玉造りに見せらるるに、「これは先にも捨てられたりし石なり」と申しけり。怒りて左の足を切られぬ。卞和、玉璞(あらたま)をいただきて、楚山の麓(ふもと)に、三日三夜、血の涙を流して、歎き居たり。 王、このことを、「ゆゑあるらむ」と悟りて、玉を召して、玉造りに仰せて磨かるるに、光、玉石すぐれて、「和氏璧」とぞ聞こえける。 琴操いはく、卞和が玉石を、懐王に奉る。次に、平王に奉る。次に平王の子、位につきて、玉を磨きて、あらはされて、卞和、陵陽侯となさる。されども、辞して去りぬと言へり。   日に磨く峰の梢(こずゑ)に鳴く蝉の声こそ玉の響きなりけれ ===== 翻刻 ===== 卞和泣玉 蝉 此説異説尤多 楚人卞和楚山ノウチニテヒトツノ玉璞(アラタマ)ヲエテ武王ニタテマツ ル玉ツクリニミセラルルニ石ナリト申スイカリテ卞和カ右ノ 足ヲキラレヌ後ニ文王位ニツキタマヒヌマタ卞和コノ玉ヲタテ マツル玉ツクリニミセラルルニコレハサキニモステラレタリシ石ナリト/d1-18l 申シケリイカリテ左ノ足ヲキラレヌ卞和アラタマヲイタタキ テ楚山ノフモトニ三日三夜チノ涙ヲ流テ歎キ居タリ王コノ事ヲ ユヘアルラムトサトリテ玉ヲメシテ玉ツクリニヲホセテミカカル ルニヒカリ玉右(石歟)スクレテ和氏璧トソキコヘケル琴操云卞 和カ玉石ヲ懐王ニタテマツル次ニ平王ニタテマツル次平王ノコ位ニ ツキテ玉ヲミカキテアラハサレテ卞和陵陽侯トナサルサ レトモ辞シテサリヌト云ヘリ ヒニミカクミネノコスヱニナクセミノコヱコソタマノヒヒキナリケレ/d1-19r