蒙求和歌 ====== 第2第4話(24) 樊噲排闥 水鶏 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 樊噲排闥 水鶏 ** 樊噲((底本「樊會」。書陵部本(桂宮本)により訂正。))は沛国((「沛」は底本「浦」。書陵部本(桂宮本)により訂正。))の人なり。 漢の高祖((劉邦))の忠臣たりき。位につきて、天下をとりて後、病ひあて、人の多く参るをとどめて((底本「オヲトトメテ」。オを衍字とみて削除。))、一人の使ひ人を身に添へ給ひき。勅を下して((「勅を下して」は底本「勅下ノ」。書陵部本(桂宮本)により修正。))、門戸を守らせて、群臣を入れられず。 樊噲、世のためこれを歎きて、推して((底本「ソシテ」。書陵部本(桂宮本)により修正。))門戸を開きて、近く進み参りて、涙を流して、諫(いさ)め申していはく、「君の世を執り給ひし始めより、仕へて忠ありき。天下、すでに定まりぬ。君の御病を、大臣、怖ぢ恐れ申す。群臣に見え給ひて、謀(はかりごと)をめぐらし給ふべき所に、一人をのみ近付けて、群臣に踈まれ給はむことの、心憂く悲しきなり。昔の趙高がゆゑをば知り給はずや」と奏するに、おほやけ笑ひて、起き出で、これに従ひ給ひにけり。   かき暗す心の闇も明けにけり槙(まき)の板戸を叩く水鶏(くひな)に((底本は和歌を欠いている。書陵部本(桂宮本)により補った。)) ===== 翻刻 ===== 樊會排闥 水鶏 樊會ハ浦国人也漢高祖ノ忠臣タリキ位ニツキテ天下ヲ/d1-16l トリテ後病ヒアテ人ノ多クマイルオヲトトメテヒトリノツカ ヒ人ヲ身ニソヘ給ヒキ勅下ノ門戸ヲマモラセテ群臣ヲ入ラ レス樊會世ノタメ此ヲ歎テソシテ門戸ヲヒラキテ近ク ススミマイリテ涙ヲ流テイサメ申テ云ク君ノ世ヲトリ タマイシハシメヨリツカヘテ忠アリキ天下ステニサタマリヌ 君ノ御ヤマヒヲ大臣ヲチヲソレ申ス群臣ニミヘ給テハカリ コトヲメクラシ給ヘキ所ニ一人ヲノミチカツケテ群臣ニウ トマレタマハムコトノ心ウクカナシキ也昔ノ趙高カ故ヲ ハシリタマハスヤト奏スルニヲホヤケワラヒテヲキヰテ 此ニシタカヒタマヒニケリ/d1-17r