蒙求和歌 ====== 第2第1話(21) 辛毗引裾 更衣 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 辛毗引裾 更衣 ** 辛毗((辛毘))は穎川の人なり。おほやけ((底本「オホカケ」。書陵部本(桂宮本)により訂正。曹丕をさす。))、「冀州の人戸を河南に移さん」と仰せられけるを、高きも賤しきも愁ひ歎きけり。 辛毗、侍中として、人の愁ひをかへりみていさめ申す。おほやけ、御気色たがひて、立ちて入り給ふを、御裾引きて、「君を思ひ奉るゆゑに、世の痛みを申すなり。これを用ゐ給はざらむことは、わが身のためにあらず」と、泣く泣くいさめ申すに、あはれび((「あはれび」底本「は」虫損。書陵部本(桂宮本)により補う。))思して、このことを留められにけり。   誰(た)がためもうらなかりけり夏衣世をはぐくみし情けのみかは ===== 翻刻 ===== 辛毗引裾 更衣 辛毗ハ穎川ノ人也ヲホカケ冀州ノ人戸ヲ河南ニウツサ ント仰ラレケルヲ高モ苟キモ愁歎ケリ辛毗侍 中トシテ人ノ愁ヲカヘリミテイサメ申スヲオホヤケ御気 色タカヒテタチテ入給ヲ御裾(コ□モノスソヲ)ヒキテ君ヲ思ヒタテ マツル故ニ世ノイタミヲ申也此ヲモチヰ給ハサラムコトハ/d1-15l 我身為非ト泣々イサメ申ニア□レヒヲホシテ此事ヲ留ラレニケリ タカタメモウラナカリケリ夏衣ヨヲハククミシナサケノミカハ/d1-16r