古本説話集 ====== 第46話 小野宮殿の事 ====== **小野宮殿事** **小野宮殿の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、小野宮殿((藤原実頼))の御子に、少将なる人((藤原敦敏))おはしけり。佐理の大弐((藤原佐理))の親なり。はかなくわづらひて失せにければ、小野宮殿、泣きこがれ給ふ事限りなし。 さて、忌み果て方になるほどに、この少将の御乳母(めのと)の、陸奥国の守の妻になりて行きたりけるが、「若君、かく失せ給へり」とも知らで、恋しく、わびしきよしを書きて、馬奉りたりけるに添へて、御文参らせたりける。 返り事、小野の宮殿ぞ書きて遣はしける。「その人は、このほどに、はかなくわづらひて失せにしかば、ここには今まで生きたることをなん、心憂く思ゆる」とばかり書きて、歌をなん詠みて遣はしける。   まだ知らぬ人もありけり東路(あづまぢ)に我も行きてぞ過ぐべかりける と書きて遣はしけるを見て、乳母、いかなる心地しけむ。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし小野宮殿の御子に少将 なる人おはしけりすけまさの大弐のをや/b120 e61 なりはかなくわつらひてうせにけれは小野 宮殿なきこかれ給事かきりなしさて いみはてかたになるほとにこの少将の御めの とのみちのくにのかみのめになりてゆきたり けるかわかきみかくうせ給へりともしらてこひ しくわひしきよしをかきてむまたて まつりたりけるにそへて御文まいらせたりけるかへり 事をのの宮殿そかきてつかはしけるその人 はこのほとにはかなくわつらひてうせにし かはここにはいままていきたることをなん心/b121 e61 うくおほゆるとはかりかきて歌をなん よみてつかはしける またしらぬひともありけりあつまちに 我もゆきてそすくへかりける とかきてつかはしけるをみてめのといか なる心ちしけむ/b122 e62