古本説話集 ====== 第45話 阿倍仲麻呂の事 ====== **安倍中麿事** **阿倍仲麻呂の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、阿倍仲麻呂が唐土(もろこし)に使ひにて渡りけるに、この国の、はかなきことにつけて、思ひ出でられて、恋ひしく悲しく思ゆるに、月のえもいはず明きに、この国の方を眺めて、思ひすまして詠める。   天の原ふりさけ見れは春日なる三笠の山に出でし月かも となむ、詠みて泣きける。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしあへのなかまろかもろこし につかひにてわたりけるにこのくにのはかなき ことにつけて思いてられてこひしくかなし くおほゆるに月のえもいはすあかきに この国のかたをなかめて思ひすましてよめる あまのはらふりさけみれはかすかなる みかさの山にいてし月かも となむよみてなきける/b120 e61