古本説話集 ====== 第39話 道信中将、花山院の女御に歌を献ずる事 ====== **道信中将献花山院女御哥事** **道信中将、花山院の女御に歌を献ずる事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、式部卿宮((為平親王))の姫宮((婉子女王))、花山院((花山天皇))の女御にておはしける。院、出家(すけ)せさせ給て後、小野宮の実資殿((藤原実資))の北方にならせ給ひたりし、いとあやしかりしことぞかし。道信の中将((藤原道信))も希望(けまう)したてまつり給ひけるに、それはさもなくて、小野の宮殿参り給ひにければ、中将の申し給ひしぞかし。   うれしきはいかばかりかは思ふらん憂きは身にしむ心地こそすれ 人の口に乗れる歌にて侍るは。 為平の式部卿宮とて、村上の御門((村上天皇))のいみじきおぼえにて、もてかしづかれ給ひし宮の御女(むすめ)の、かかる色好みにならせ給へる御ふるまひ、いといと口惜しく。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし式部卿宮のひめ宮花山院の 女御にてをはしける院すけせさせ給て後 小野宮のさねすけとのの北方にならせ給たり しいとあやしかりしことそかしみちのふ の中将もけまうしたてまつり給けるにそれは/b109 e55 さもなくてをのの宮殿まいり給にけれは中将 の申給しそかし うれしきはいかはかりかはおもふらん うきは身にしむ心ちこそすれ 人のくちにのれる哥にて侍るはためひらの 式部卿宮とてむらかみの御かとのいみしきおほえ にてもてかしつかれ給し宮の御むすめの かかるいろこのみにならせ給へる御ふるまひいといと くちをしく/b110 e56