古本説話集 ====== 第38話 樵夫、隠題を詠む事 ====== **樵夫詠隠題事** **樵夫、隠題を詠む事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける御門の、「篳篥(ひちりき)」を人、わろく詠みたりけるに、木樵る童の、「暁に山へ行く」とて言ひける。「このごろ篳篥を詠ませさせ給ふなるを、人のえ詠みえ給はざむなる。童こそ詠みたれ」と言ひければ、具して行く童部、「あなおほけな。かかる事な言ひそ。様(さま)にも合はず。いまいまし」と言ひければ、「などか、必ず様によるか」とて、   巡りくる春々ごとに桜花いくたび散りき人に問はばや と言ひたりける。様に似ず、思ひがけずぞ ===== 翻刻 ===== いまはむかしかくし題をいみしく けふせさせ給ける御かとのひちりきをひとわろ くよみたりけるにきこるわらはのあかつき に山へゆくとていひけるこのころひちりきを よませさせ給なるを人のえよみへ給はさむな るわらはこそよみたれといひけれはくして ゆくわらはへあなおほけなかかる事ないひそ/b108 e55 さまにもあはすいまいましといひけれは なとかかならすさまによるかとて めくりくるはるはることにさくらはな いくたひちりきひとにとははや といひたりけるさまににす思かけすそ/b109 e55