古本説話集 ====== 第35話 元良の御子の事 ====== **元良御子事** **元良の御子の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔。元良(もとよし)の御子((陽成天皇第一皇子元良親王))とて、いみじうをかしき人おはしけり。通ひ給ふところどころに、   来や来やと待つ夕暮れと今はとて帰る朝(あした)といづれ勝れり 同じやうに書かせ給ひて、あまた所へ遣はしたりける。 本院の侍従の君のぞ、あるが中に、をかしう思されける。   夕暮れはたのむ心になぐさめつ帰る朝は消(け)ぬべき物を また人、   夕暮れはまつにもかかる白露のおくる朝や消えは果つらむ この((以下、元良親王とは無関係の記述。))左大臣殿((源雅信))の御弟(をとと)、六条の左大臣重信((源重信))と申たるも、よき人にておはしけり。また、源大納言((源時中))と申したるも。おほかた敦実(あつみ)の親王の御公達、みなめでたくおはしましけり。広沢の僧正((寛朝))も。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしもとよしの御子とていみしう をかしき人おはしけりかよひ給ところところに くやくやとまつゆふくれといまはとて かへるあしたといつれまされり/b105 e53 おなしやうにかかせ給てあまた所へつか はしたりける本院の侍従の君のそあるかな かにをかしうおほされける ゆふくれはたのむこころになくさめつ かへるあしたはけぬへき物を また人 ゆふくれはまつにもかかるしらつゆの をくるあしたやきえははつらむ この左大臣殿ゝ御をとと六条の左大臣しけのふ と申たるもよき人にておはしけり又源大納言と申たるもおほかたあつみのしむわうの御/b106 e54 きむたちみなめてたくおはしましけりひろ さはの僧正も/b107 e54