古本説話集 ====== 第30話 高光少将の事 ====== **高光少将事** **高光少将の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、高光の少将((藤原高光))と申したる人、出家(すけ)し給ひたりければ、あはれにもやさしくも、さまざまなることども侍りけり。 なかにも御門の御消息(せうそこ)遣はしたりけむこそ、かたじけなく、「おぼろげならずは、御心も乱れけんかし」と、人、申しける。   みやこより雲の上まで山の井の横川の水はすみよかるらむ 御返り、   九重の内のみつねに恋ひしくて雲の八重立つ山は住み憂し 多武の峰に後には住み給ひしなり。 九条殿((藤原師輔))の御子。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしたかみつの少将と申たる ひとすけし給たりけれはあはれにもやさし くもさまさまなることとも侍けりなかにも御 門の御せうそこつかはしたりけむこそかたし けなくおほろけならすは御心もみたれけん かしと人申ける みやこよりくものうへまてやまのゐの よかはのみつはすみよかるらむ 御かへり ここのへのうちのみつねにこひしくて/b101 e51 雲のやえたつ山はすみうし たうのみねにのちにはすみ給し也 九条とのの御子/b102 e52