古本説話集 ====== 第25話 藤六の事 ====== **藤六事** **藤六の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、藤六((藤原輔相))といふ歌詠み、下衆(げす)の家に入りて、人もなかりける折を見つけて入りにけり。 鍋に煮ける物を、すくひ食ひけるほどに、家主(いゑあるじ)の女、水を汲みて大路の方より来てみれば、かくすくひ食へば、「いかに、かく人も無き所に入りて、かくはする物をば参るぞ。あなうたてや。藤六にこそいましけれ。さらば歌詠み給へ」と言ひければ、   昔より阿弥陀仏(あみだほとけ)のちかひにて煮ゆるものをばすくふとぞ知る とこそ、詠みたりけれ。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしとうろくといふ哥よみけす の家にいりてひともなかりけるをりをみ つけていりにけりなへににける物をすくひ/b72 e37 くひけるほとにいゑあるしの女みつをくみて おほちのかたよりきてみれはかくすくひくへは いかにかくひともなき所にいりてかくはする物をは まいるそあなうたてやとうろくにこそいま しけれさらは哥よみ給へといひけれは むかしよりあみたほとけのちかひにて にゆるものをはすくふとそしる とこそよみたりけれ/b73 e37