古本説話集 ====== 第24話 蝉丸の事 ====== **蝉丸事** **蝉丸の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、逢坂の関に、行き来の人に、物を乞ひて世を過ぐす者ありけり。よろしき者にてありけるにや、さすがに琴なども弾き、人にあはれがらるる者にてなむありける。 あやしの草の庵を作りて、藁といふ物かけて、しつらひたりけるを、人の見て、「あはれの住処のさまや。藁してしつらひたる」など、笑ひけるを聞きて詠める。   世の中はとてもかくてもありぬべし宮も藁屋もはてしなければ 蝉丸(せびまろ)となんいひける。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしあふさかのせきにゆききの 人に物をこひてよをすくす物ありけり よろしき物にてありけるにやさすかにこと なともひき人にあはれからるる物にてなむあり/b71 e36 けるあやしの草のいほりをつくりてわらと いふ物かけてしつらひたりけるをひとのみて あはれのすみかのさまやわらしてしつらひたる なとわらひけるをききてよめる 世中はとてもかくてもありぬへし みやもわらやもはてしなけれは せひまろとなんいひける/b72 e37