古本説話集 ====== 第17話 賀朝の事 ====== **賀朝事** **賀朝の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、人の妻(め)に忍びて通ふ僧ありけり。元の男に見つけられて、詠みかけける、   身投ぐとも人に知られぬ世の中に知られぬ山に見るよしもかな と言へば、元の男   世の中に知られぬ山に身投ぐとも谷の心やいはで思はん この密男(みそかをとこ)は賀朝といひたる学生説経師なり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし人のめにしのひてかよふ僧あり けりもとのをとこにみつけられてよみかけける みなくともひとにしられぬ世の中に しられぬ山にみるよしも哉 といへはもとのをとこ 世の中にしられぬ山に身なくとも たにのこころやいはてをもはん このみそかをとこはかてうといひたる学生説経師也/b58 e29