古本説話集 ====== 第16話 継子、小鍋の歌の事 ====== **継子小鍋哥事** **継子、小鍋の歌の事 ** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、人の女(むすめ)の幼かりける、継母にあひて、憎まれてわびしげにてありけり。継母、我方に人のもとより讃岐の小鍋を多く得て、前に取り並べて、見、沙汰しけるを、この子に一つもとらせざけり。 「心憂し」と思ひて、南面(みなみをもて)の人もなき方に出でて、うち泣きてながめゐたれば、鶯同じ心にいみじく鳴きければ、   鶯よなどさは鳴くぞ乳(ち)やほしき小鍋やほしき母や恋ひしき とぞ詠みたりける。 かたち、心ばへも美しかりけれども、継母になりぬれば、かく憎みけるなり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし人のむすめのをさなかりける/b56 e28 ままははにあひてにくまれてわひしけにて 有けりままはは我方に人のもとよりさぬき のこなへをおほくえて前にとりならへてみさた しけるをこの子に一もとらせさりけり 心うしとおもひてみなみをもてのひともなき 方にいててうちなきてなかめゐたれはうくひすをなし 心にいみしくなきけれは うくひすよなとさはなくそちやほしき こなへやほしきははやこひしき とそよみたりけるかたち心はへもうつくしかり/b57 e28 けれともままははになりぬれはかくにくみける也/b58 e29