古本説話集 ====== 第14話 清少納言、清水の和歌の事 ====== **清少納言清水和哥事** **清少納言、清水の和歌の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、清少納言、清水に籠りたりけるに、宮より御使ひさして賜はせたる歌に、   山ふかき入りあひの鐘の声ごとに今日ぞ日ごろの数は知るらん また九月九日、月少し山ぎは近くなるほどに、つねまさの少将((経房の少将(源経房)の誤りと考えられている。))、高やかに呼びたてて、「これ右大臣殿((藤原道兼))の御文」とて、さし入れたり。香染の紙にて、   みな人の心移ろふ長月のきくに我さへ過ぎぬべきかな 「遅し遅し」と責めにつかはす。「書きつづくべき方こそなかりしか」とぞ。右大臣殿は粟田口殿の事なり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし清少納言きよ水にこもりたりける に宮より御つかひさしてたまはせたるうたに 山ふかきいりあひのかねのこゑことに けふそひころのかすはしるらん また九月九日つきすこし山きはちかくなるほとに つねまさの少将たかやかによひたててこれ右大臣 とのの御文とてさしいれたりかうそめのかみにて みな人のこころうつろふなかつきの きくに我さえすきぬへきかな をそしをそしとせめにつかはすかきつつくへき方こそ/b55 e27 なかりしかとそ右大臣殿は粟田口とのの事也/b56 e28