古本説話集 ====== 第12話 清少納言の事 ====== **清少納言事** **清少納言の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、二月つごもり、風うち吹き、雪うち散るほど、公任の宰相((藤原公任))の、中将と聞こえけるとき、清少納言がもとへ、懐紙(ふところがみ)に書きて、   少し春ある心ちこそすれ とありけり。「げに、今日のけしきにいとよくあひたるを。いかが付くべからむ」と、思ひわづらふ。   空冴へて花にまがひて散る雪に と、めでたく書きたり。いみじく褒め給ひけり。 俊賢(としかた)の宰相((源俊賢))、「内侍になさばや」と、のたまひけるとぞ。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし二月つごもりかせうちふきゆき うちちるほと公任の宰相の中将ときこえける とき清少納言かもとへふところ紙にかきて すこしはるある心ちこそすれ と有けりけにけふのけしきにいとよくあひたる/b53 e26 をいかかつくへからむと思ひわつらふ そらさへてはなにまかひてちるゆきに とめてたくかきたりいみしくほめたまひけり としかたの宰相ないしになさはやとのたまひける とそ/b54 e27