古本説話集 ====== 第11話 季縄少将の事 ====== **季縄少将事** **季縄少将の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、季縄(すゑなを)の少将((藤原季縄))といふ人ありけり。 大井に住みけるころ、御門((醍醐天皇。ただし、[[text:yamato:u_yamato100|三条西家旧蔵伝為氏筆本『大和物語』100段]]では、「亭子の御門」となっており宇多天皇(上皇)。))の仰せられける、「花おもしろくなりなば、かならず御覧ぜん」と。仰せられけれど、思し忘れて、おはしまさざりければ、少将、   散りぬればくやしきものを大井川岸の山吹今さかりなり この季縄、病ひつきて、少しおこたりて、内裏(うち)に参りたりけり。公忠の弁((源公忠))、掃部の助にて、蔵人なりけるころの事なり。「みだり心地、いまだよくもおこたり侍らねども、心もとなくて参り侍りつる。後は知らねど、かくまで侍ること。明後日(あさて)ばかり、また参り侍らん。よき様に申させ給へ」とて、まかり出でぬ。 三日ばかりありて、少将がもとより   くやしくぞ後に会はむと契りける今日を限りといはましものを さて、その日失せにけりとぞ。あはれなることのさまなり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかしすゑなをの少将といふひとありけり おほゐにすみけるころみかとのおほせられけ るはなおもしろくなりなはかならす御らむせ/b51 e25 んとおほせられけれとおほしわすれておはし まささりけれは少将 ちりぬれはくやしきものをおほゐかは きしの山吹いまさかりなり このすゑなを病つきてすこしをこたりて うちにまいりたりけり公忠の弁かもむのすけ にて蔵人なりけるころの事也みたり心地いまた よくもおこたり侍らねとも心もとなくてまいり侍 つるのちはしらねとかくまて侍事あさてはかり又 まいり侍らんよき様に申させ給へとてまかりいて/b52 e26 ぬ三日はかりありて少将かもとより くやしくそのちにあはむとちきりける けふをかきりといはましものを さてそのひうせにけりとそあはれなる事のさま なり/b53 e26 ---- 様={{:text:kohon:kohon011kanji.png?nolink|}}