唐物語 ====== 第7話 宋玉と聞こゆる人、形姿世にたぐひなく・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 昔、宋玉と聞こゆる人、形・姿、世にたぐひなく、ざえ才学並びなかりけり。 この人住みける東の隣に、また、世にたぐひなく美しき女ありけり。この宋玉を「いかでも」と思ふ心の忍びがたさに、東の垣(かき)に、夜昼立ち添ひて伺(うかが)ひけれど、三年(みとせ)まで目をだに見遣(みや)らざりければ、恋ひ侘びて、つひに逢ふこと知らぬ涙に沈みはてにけり。   恋ひ侘びて三年(みとせ)になりぬ花がたみ目ならぶ人のまたもなければ ゆかしからずはなかりけめど、あまり心の優(いう)にて、「人に物を思はせん」と思へりけるにや、また、さもやなかりけん、心の内知りがたし。 ===== 翻刻 ===== むかし宋玉ときこゆる人かたちすかた世に たくひなくさへ才学ならひなかりけりこの人 すみける東のとなりに又世にたくひなくう つくしき女ありけりこの宋玉をいかてもと おもふ心の忍かたさに東のかきによるひる 立そひてうかかひけれとみとせまてめをたに みやらさりけれはこひわひてつゐにあふことしら ぬ涙にしつみはてにけり こひわひてみとせになりぬはなかたみ めならふ人の又もなけれは/m320 ゆかしからすはなかりけめとあまり心のいう にて人に物をおもはせんと思へりけるにや又 さもやなかりけん心のうちしりかたし/m321