今昔物語集 ====== 巻6第8話 金剛智三蔵金剛界曼陀羅渡震旦語 第八 ====== 今昔、大日如来、一切衆生を利益し給はむが為に、金剛界の曼陀羅の大法を説給て、金剛薩埵に授け給ふ。金剛薩埵((普賢菩薩。[[k_konjaku6-7|前話]]の金剛手菩薩に同じ。))、此れを受け、数百歳の後、龍猛菩薩((龍樹))に伝ふ。龍猛菩薩、亦、数百歳の後、龍智菩薩に伝ふ。龍智、謹て此れを受て持(たも)つ事、瓶の水を器に移すが如くして、金剛智に伝ふ。 金剛智は、此れ南天竺のの摩頼耶国の人也。此の人、慈悲深くして、縁に随て遊行して、所に随て、衆生を利益す。然ば、国挙て帰依する間、「震旦に、仏法盛にして、大教を崇む」と聞給て、遂に船に乗て、海を渡て、震旦の開元八年と云ふ年、震旦に渡ぬ。 其の時の国王、玄宗皇帝、此れを帰依し給ふ事限無し。広く教法を弘め、曼陀羅を建つるに、其の霊験、掲焉(けちえん)也けり(下文欠)