今昔物語集 ====== 巻3第5話 舎利弗目連競神通語 第五 ====== 今昔、仏((釈迦))、祇薗精舎に在ます時に、多の御弟子達集り給に、舎利弗、未だ来給はず。其の時に、目連に告て宣はく、「汝、速に舎利弗の所に行て、呼て将来べし」と。 目連、仏の教に随て、舎利弗の所に行て、仏の御言を告るに、舎利弗、衣を補て居給へり。帯を解て地に置けり。 舎利弗、目連に告て云く、「汝は神通第一の人也。我が此の地に置ける帯を取り動かすべし」と。然れば、目連、神通を励して、此の帯を挙むと為るに、塵許も動かず。須弥は振ひ、大地は動けども、終に此の帯動かずして止ぬ。 亦、舎利弗、目連に云く、「汝は速に前に参るべし。我は後に至らむ」と。此れに依て、目連、仏の御許に返り参たるに、舎利弗、威儀を斁(やぶ)らずして、仏の御前に候ひ給ふ。目連、「希有也」と見て、止給ぬ。 此れを以て、目連知ぬ、「我れ神通第一也と云ども、舎利弗は増(まさ)れり」と。然れば、舎利弗は智恵・神通共に第一の人也けり。 「仏の御弟子達も、此の如きの挑事をし給ふ也けり。増して、末代の僧の智恵験(ちゑくらべ)を挑まむは尤裁(ことは)り也かしとなむ、語り伝へたる」とや。