今昔物語集 ====== 巻24第47話 伊勢御息所幼時読和歌語 第四十七 ====== 今昔、伊勢の御息所の、未だ御息所にも成らで、七条の后((藤原温子))の許に候ひける比、枇杷左大臣((藤原仲平))、未だ若くして少将にて有ける程に、極く忍て通ひ給ひけるを、忍ぶと為れども、人自然ら髴(ほのか)に其の気色を見てけり。 其の後、少将、通ひ給はずして、音無かりければ、此く読てなむ遣たりける。伊勢、   人しれず絶なましかばわびつつもなき名ぞとだにいはましものを と。 少将、此れを見て、「哀れ」とぞ思給ひけむ、返てなむ此の度は現はれて、極く思て棲給けるとや。