今昔物語集 ====== 巻12第23話 於法成寺薬師堂始例時日現瑞相語 第廿三 ====== 今昔、入道大相国((藤原道長))、法成寺を建立し給て後、其の内の東に、西向に子午の堂を造て、七仏薬師を安置し給て、万寿元年と云ふ年の六月廿六日に供養せさせ給ひつ。 其の後、堂にして□年の□月□日に、例時を始め給ふ日、御子の関白殿((藤原頼通))より始めて、公卿・殿上人・諸大夫に至るまで、員を尽して参り集れり。僧共、皆参て、既に講始れる程に、御堂の東面に有る従僧共、空を仰て見喤(ののし)る事有り。西面に有る人共、此れを聞て、「何事ぞ」と思て、出て空を見れば、東の方より五色の光り、長さ十丈許して五筋六筋許、西様に渡れり。錦の色の如し。 此れを見る人、「奇異也」と思て、暫く守りし程に失にける。然れば、墓々しき人の見たるを、少し講じ畢て後、入道殿、此の事を聞かせ給て、「我に告げずして此の事を見しめざる、極たる遺恨の事になむ」と仰せ給ひける。 其の光り、始めは何が有けむ。後に人の見し程は、霞の様にて有るか無きかの如くにぞ有る。「此れ奇異の事也」とぞ、其の時の人云ひけるとなむ語り伝へたるとや。