今昔物語集 ====== 巻1第36話 舎衛城婆羅門一匝遶仏語 第卅六 ====== 今昔、仏((釈迦))、舎衛城に入て乞食し給ふ。 其の時に、城の中に一の((底本頭注「一ノ一本一人ノニ作ル」))婆羅門有て、外より来る間、仏を見奉るに、仏、光明を放て、魏々として在ます。婆羅門、此れを見奉て歓喜して、仏を一匝遶(いちどめぐり)て礼拝して去ぬ。 其の時に、仏、微咲して、阿難に告て宣はく、「此の婆羅門、我を見て、歓喜して、清浄の心を以て、仏を一匝遶れり。此の功徳を以て、此より後、廿五劫の間、三悪道に堕ちずして、天上人中に生れて、常に楽を受けむ。廿五劫の後は、辟支仏と成て、名をば持儭那祇利と云べし」と説給けり。 然れば、此れを以て知るに、若し人有て、仏及び塔を遶ごとに、五種の徳を得べし。一には生れむ所に常に端正ならむ、二には生れむ所に常に妙声ならむ、三には常に天上に生れむ、四には常の王家に生れむ、五には涅槃を得む。 然れば、仏を遶り塔を遶こと、輙き事なれども、其の功徳限無し。専に心を至して、を仏を遶ぐり奉るべしとなむ、語り伝へたるとや。