十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の69 成通卿年ごろ鞠を好み給ひけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 成通卿((藤原成通))、年ごろ鞠(まり)を好み給ひけり。その徳やいたりにけん、ある年の春、鞠の精、かかりの柳の枝にあらはれて見えけり。みづら結ひたる小児、十二三ばかりにて、青色の唐装束して、いみじくうつくしげにぞありける。 なにごとをも始むとならば、底を極めて、かやうのしるしをもあらはすばかりにぞ、せまほしけれど、かかるためし、いとありがたし。 されば、「学者は牛毛のごとし、得者は麟角の如し」ともあり。また、「すること難(かた)きにあらず、よくすることの難きなり」ともいへる。「げにも」と思ゆるためしありけり。 ===== 翻刻 ===== 七十一成通卿トシコロ鞠ヲ好ミ給ケリ、其徳ヤイタリニケン、ア/k115 ル年ノ春、マリノ精カカリノ柳ノ枝ニアラハレテ見エケ リ、ミツラユヒタル小児十二三ハカリニテ、青色ノ唐装 束シテ、イミシクウツクシケニソ有ケル、何事ヲモ始ム トナラハ、底ヲ極メテ、カヤウノシルシヲモアラハスハカリ ニソセマホシケレト、カカルタメシイト有カタシ、サレハ学者 ハ牛毛ノコトシ、得者ハ麟角ノ如シトモアリ、又スル事 カタキニアラス、ヨクスル事ノカタキナリトモ云ル、ケニモ ト覚ルタメシアリケリ、/k116