十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の65 同じ帝月の夜笛吹き給ひけるにその声竜の鳴くにたがはず・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じ帝((玄宗皇帝をさす。[[s_jikkinsho10-64|前話]]参照。))、月の夜、笛吹き給ひけるに、その声、竜の鳴くにたがはず。 術者、これを聞きて、「竜の泣くぞ」と思ひて、心に竜の声とどむる符を作りて、これを封じてけり。その時、帝、にはかに手すくみ、息失せて、え吹き給はず。宮の中に騒ぎ歎くこと、世に聞こえて、天の下のうれへなりけり。 これをかの術者、漏れ聞きて、わが術の験(しるし)ある事をさとりて、符を破りてければ、帝、もとのごとくになり給ひけり。 これよりぞ((「ぞ」底本「の」。諸本により訂正。))、御笛の徳、極め給へることを知り給ひけり。 ===== 翻刻 ===== 六十八同帝月ノ夜笛吹給ケルニ、ソノ声竜ノ鳴ニタカハス、 術者是ヲ聞テ竜ノ泣ソト思テ、心ニ竜ノ声トトムル符 ヲ作テ是ヲ封シテケリ、其時帝俄ニ手スクミイキ ウセテエ吹給ハス、宮ノ中ニサハキ歎ク事世ニ聞エテ、 天ノ下ノウレヘナリケリ、是ヲ彼術者モレキキテ、我術 ノシルシアル事ヲサトリテ、符ヲ破リテケレハ、帝モト ノ如ニナリ給ケリ、是ヨリノ御笛ノ徳キハメ給ヘル事 ヲシリ給ケリ、/k111