十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の57 僧徒の勤めには八宗の修学一陀羅尼行者法華持者らなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 僧徒の勤めには、八宗の修学・一陀羅尼行者・法華持者らなり。おほむね、後世の修因なりといへども、公請におもむく日は、今生の能ともいふべし。 天竺・震旦はさておきつ。わが朝にとりても、弘法((空海))・伝教((最澄))・慈覚((円仁))・智証((円珍))の四大師をはじめ奉りて、菩薩・和尚号をかうぶらるるたぐひ、聖人・権者の名をあらはす振舞、その証多かれども、面々の霊験・行徳、さのみ((底本「さくみ」。諸本により訂正。))しるしがたし、なかなか少々を抜き選ぶに及ばず。 管絃の徳、神感の例、あらあら上に書けりといへども、うちあることにつきて、なほ申すべし。 村上((村上天皇))の御時、三条中納言朝忠卿((藤原朝忠。ただし、「三条中納言」は弟の朝成の号。))、御前にさぶらひけり。弟朝成((藤原朝成))、はじめて昇殿ゆりて、小板敷に候す。 主上、小蔀より御覧ずるに、その貌(かほ)、きはめて憎さげなり。笛を吹くよし、聞こしめして、雲太を賜ひければ、内裏も響くばかり吹きたりけり。 形もたちまちに美麗にぞ見えける。 ===== 翻刻 ===== 僧徒ノ勤ニハ、八宗ノ修学一陀羅尼行者法花持者 等也、大旨後世ノ修因也トイヘトモ、公請ニヲモムク日ハ今 生ノ能トモ云ヘシ、天竺震旦ハサテヲキツ、我朝ニトリ テモ弘法伝教慈覚智証ノ四大師ヲ始奉テ、菩薩和 尚号ヲカフフラルル類、聖人権者ノ名ヲアラハス振舞、 其証多カレトモ、面々ノ霊験行徳サクミ注カタシ、中 中少々ヲヌキエラフニ及ハス、管絃ノ徳神感ノ例粗/k97 上ニ書リトイヘトモ、ウチアル事ニ付テ猶申ヘシ、 六十一村上御時三条中納言朝忠卿御前ニサフラヒケリ、弟朝成 始テ昇殿ユリテ小板敷ニ候ス、主上小蔀ヨリ御覧ス ルニ、其㒵極テニクサケナリ、笛ヲフクヨシ聞食テ、雲太 ヲ給ケレハ、内裏モヒヒクハカリ吹タリケリ、形モ忽ニ美 麗ニソ見エケル、/k98