十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の53 近くは壬生の二位家隆卿八十にて天王寺にて終り給ひける時・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 近くは壬生の二位家隆卿((藤原家隆))、八十にて、天王寺にて終り給ひける時、三首の歌を詠みて廻向せられける。臨終正念にて、その志、むなしからざりけり。 そのうち一首にいはく、   契りあれば難波の里に移り来て波の入り日を拝みつるかな 宝日上人といひし人の、無常の古歌三首を、日の所作に詠じて、往生の素懐をとげ給ひけるも、その理、違はずこそ。 ===== 翻刻 ===== 五十六近ハ壬生ノ二位家隆卿八十ニテ天王寺ニテ終リ給ケ ル時、三首ノ哥ヲヨミテ廻向セラレケル、臨終正念ニテ 其志ムナシカラサリケリ、其内一首云、 契アレハナニハノサトニウツリキテ、ナミノ入日ヲ拝ツルカナ 五十八宝日上人ト云シ人ノ、無常ノ古哥三首ヲ日所作ニ詠 シテ、往生ノ素懐ヲトケ給ケルモ、其理不違コソ、又モ/k91