十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の39 桜島忠信が大隅守にて下りけるに郡の司に頭の白き翁ありけるを・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 桜島忠信が大隅守にて下りけるに、郡の司に頭の白き翁ありけるを、咎(とが)ありて召し勘(かんが)へんとしたりければ、   老いはてて雪の山をはいただけどしもと見るにぞ身はひえにける と詠みてゆりにけり。 かやうのことのみならず。歌は妹背の仲をもやはらぐる、なかだちなるによりて、「色めくたぐひ、これを花鳥の使(つかひ)とす」ともあり、あるひはまた、「貧しき世を渡る橋とす」とも見えたり。 その徳、かたがた多かるべし。 ===== 翻刻 ===== 四十一桜島忠信カ大隅守ニテ下ケルニ、郡ノ司ニ頭ノ白キ翁/k77 有ケルヲ、トカアリテ召カムカヘントシタリケレハ、 オヒハテテ雪ノ山ヲハイタタケト、シモトミルニソ身ハヒヘニケル トヨミテユリニケリ、カヤウノ事ノミナラス、哥ハイモセノ 中ヲモヤハラクル媒ナルニヨリテ、イロメクタクヒ、是ヲ 花鳥ノツカヒトストモアリ、或又マツシキ世ヲワタルハシト ストモ見エタリ、其徳カタカタ多カルヘシ、/k78