十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の21 八幡の楽人元正当宮領備中国吉河保下向して・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 八幡((石清水八幡宮))の楽人元正((大神基政))、当宮領、備中国吉河保((底本割注「二季御神楽」))下向して、上洛のあひだ、檉生の泊にて、心神違乱、亡せるがごとし。片鬢((底本「行鬢」ただし、「行」は人偏。諸本により訂正。))雪のごとく変ず。 奇異の思ひをなして、巫女に占ふところに、「吉備津宮((底本「津」なし。諸本により補入。))、託宣((底本「侘宣」。諸本により訂正))し給ひていはく、「たまたま、当国に下向、その曲を聞かざるによりて、祟り((底本「崇たたり」。諸本により訂正。))をなすところなり」。 たちまちにおし帰りて、かの社に参りて、皇帝以下の秘曲を吹くあひだ、白髪、たちまちにもとのごとし。もつとも道の眉目といふべし。 ===== 翻刻 ===== 二十八幡ノ楽人元正当宮領備中国吉河保(二季御神楽)下向 シテ上洛之間檉生ノ泊ニテ心神違乱如亡行鬢 雪ノ如ク変ス、奇異ノ思ヲ成テ、巫女ニ占フ所ニ吉備 宮侘宣シ給テ云、適当国ニ下向其曲ヲキカサルニ依 テ祟タタリヲナス所也、忽ニ押帰テ彼社ニ参テ、皇 帝以下ノ秘曲ヲ吹間、白髪忽ニ本ノ如シ、尤道ノ眉 目ト云ヘシ、/k60