十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の11 待賢門院女房加賀といふ歌詠みありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 待賢門院((藤原璋子))女房、加賀((待賢門院加賀))といふ歌詠みありけり。   かねてより思ひしものを伏し柴のこるばかりなる歎きせんとは といふ歌を、年ごろ詠みて持ちたりけるを、「同じくは、さるべき人にいひむつれて、忘られたらんに、詠みたらば、集などに入らん。おもても((底本、「おおもて」。衍字とみて削除。))優なるべし」と思ひて、いかがしたりけむ、花園の大臣((源有仁))に申しそめてけり。 思ひのごとくにやありけん、この歌を参らせたりければ、大臣もいみじくあはれに思しけり。 さて、かひがひしく『千載集((千載和歌集))』に入りにけり。世の人、「伏し柴の加賀」とぞ申しける。 能因が振舞ひ(([[s_jikkinsho10-10|前話]]参照。))に似よりて、ついでに申す。 ===== 翻刻 ===== 十待賢門院女房加賀ト云哥読有ケリ、/k46 カネテヨリ思シモノヲフシシハノ、コルハカリナル歎キセントハ ト云哥ヲ、年頃ヨミテモチタリケルヲ、同クハサルヘキ 人ニ云ムツレテ、ワスラレタランニ読タラハ、集ナトニ入ンオ オモテモ優ナルヘシト思テ、イカカシタリケム花園ノオ トトニ申ソメテケリ、思ノ如クニヤ有ケン、此哥ヲマイ ラセタリケレハ、オトトモイミシク哀ニオホシケリ、サテ カヒカヒシク千載集ニ入ニケリ、世人フシシハノ加賀トソ 申ケル、能因カ振舞ニ似ヨリテ次ニ申/k47