十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の6 都良香竹生島に参たりけるに眺望心にすみて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 都良香、竹生島に参たりけるに、眺望、心にすみて、   三千世界眼前尽 といふ句を作りて、其の末を案じ得ざりけれは、霊天((竹生島の弁財天))、託宣を下して、   十二因縁心裏空 一句を加へ給ひけり。 同人、羅城門を過ぐとて、   気霽風梳新柳髪 と詠じたりければ、楼上に声ありて、   氷消波洗旧苔鬚 と付けたりけり。良香、菅丞相((菅原道真))の御前にて、この詩を自嘆し申しければ、「下の句は鬼の詞なり」とぞ仰せられける。 ===== 翻刻 ===== 六都良香竹生島ニ参タリケルニ、眺望心ニスミテ 三千世界眼前尽 ト云句ヲ作テ、其ノスエヲ案得サリケレハ、霊天託宣ヲ 下テ、 十二因縁心裏空 一句ヲ加給ケリ、同人羅城門ヲスクトテ、/k42 気霽風梳新柳髪 ト詠シタリケレハ、楼上ニ声アリテ、 氷消波洗旧苔鬚 トツケタリケリ、良香菅丞相ノ御前ニテ、此詩ヲ自 嘆シ申ケレハ、下ノ句ハ鬼ノ詞ナリトソ被仰ケル、/k43