十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の4 帥民部卿経信卿またこの人におとらざりけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 帥民部卿経信卿((源経信))、また、この人((藤原公任。[[s_jikkinsho10-03|前話]]参照))におとらざりけり。 白河院、西川に行幸の時、詩・歌・管絃の三つの舟を浮べて、その道々の人々を分かちて乗せられけるに、経信卿、遅参のあひだ、ことのほかに御気色悪しかりけるほどに、とばかり待たれて参りたりけるが、三事兼ねたる人にて、汀にひざまづきて、「やや、どの舟にまれ、寄せ候へ」と言はれたりける、時にとりていみじかりけり。かく言はれん料((「料」は底本「断」。諸本により訂正。))に、遅参せられけるにこそ。 さて、管絃の舟に乗りて、詩歌を献ぜられたりけり。「三つの舟に乗る」とはこれなり。 ===== 翻刻 ===== 四帥民部卿経信卿又此人ニヲトラザリケリ、白川院西川ニ 行幸ノ時、詩哥管絃ノ三ノ舟ヲウカヘテ、其道々ノ人/k39 人ヲワカチテノセラレケルニ、経信卿遅参ノ間、コトノホカ ニ御気色アシカリケルホトニ、トハカリマタレテ参タリ ケルカ、三事兼タル人ニテ、汀ニヒサマツキテヤヤトノ舟ニマ レ、ヨセ候ヘトイハレタリケル、時ニトリテイミシカリケリ、カク イハレン断ニ、遅参セラレケルニコソ、サテ管絃ノ舟ニ乗テ、 詩哥ヲ献セラレタリケリ、三ノ舟ニ乗トハ是ナリ、/k40