十訓抄 第八 諸事を堪忍すべき事 ====== 8の9 朱買臣文の道は富めりしかども家貧しかりけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 朱買臣、文の道は富めりしかども、家貧しかりけり。 年ごろの妻、住みわびて、暇(いとま)を乞ふに、「今一年(ひととせ)を待て」と、したひ、惜しめども、聞かずして、別れ去りぬ。 その次の年、買臣、古郷の会稽の守に成て赴(おもむ)く時、かの妻、国の民の妻となりて、買臣に見えにけるを、恥ぢて悲しみて、消え入りにけりとなん。 ===== 翻刻 ===== 八朱買臣文ノミチハトメリシカトモ、家マツシカリケリ、年 比ノ妻スミワヒテ暇ヲコフニ、今ヒトトセヲマテトシタヒ オシメトモ、不聞シテワカレサリヌ、其次ノ年買臣古 郷ノ会稽ノ守ニ成テ赴クトキ、彼妻国ノ民ノ妻ト ナリテ買臣ニ見エニケルヲ恥テ悲テ、消入ニケリトナン、/k15