十訓抄 第八 諸事を堪忍すべき事 ====== 8の7 大和国に男ありけりもとの妻と壁を隔ててめづらしき女を迎へて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 大和国に男ありけり。もとの妻と壁を隔てて、めづらしき女を迎へて、月ごろ経れども、この妻妬める気色もなくて過ぎけり。 秋の夜の、つくづくと長きに、鹿の音の、枕におとづるるを、もとの妻に((底本「に」なし。諸本により補う。))、「聞き給ふや」と問ひければ、詠める。   われもしかなきてそ人に恋ひられし今こそよそに声をのみ聞け 男、かぎりなくめでて、今の妻を送り、もとの妻と住みけり。 ===== 翻刻 ===== 七大和国ニ男有ケリ、本ノ妻トカヘヲ隔テメツラシキ 女ヲムカヘテ、月コロフレトモ、此妻ネタメル気色モナ クテスキケリ、秋ノ夜ノツクツクトナカキニ、鹿ノ音ノ 枕ニオトツルルヲ、本ノ妻キキ給ヤト問ケレハヨメル、/k13 我モシカナキテソ人ニコヒラレシ、イマコソヨソニ声ヲノミキケ、 男限ナクメテテ、今ノ妻ヲ送リ、本ノ妻トスミケリ、/k14