十訓抄 第七 思慮を専らにすべき事 ====== 7の5 敏達天皇の御時高麗の表を烏の羽に書きて奉りける・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 敏達天皇の御時、高麗の表を、烏の羽に書きて奉りける。読む人なかりけり。 王辰爾、その羽を蒸して、袱紗(ふくさ)のきぬにて押しければ、書けるごとく写りて、鮮かに読まれけり。 史師明、読むともいふ。同名か。おぼつかなし。 ある人の歌に、その心を詠める、   わが恋は烏羽(からすば)に書く言の葉のうつさぬほどは知る人もなし ===== 翻刻 ===== 五敏達天皇御時高麗ノ表ヲ、烏ノ羽ニ書テ奉リケ ル、読人ナカリケリ、王行辰爾ソノ羽ヲムシテフクサ ノキヌニテヲシケレハ、書ル如クウツリテ、鮮ニヨマレ ケリ、史師明ヨムトモイフ、同名歟、オホツカナシ、或人ノ 哥ニ其心ヲヨメル、 我恋ハカラスハニカクコトノハノ、ウツサヌホトハシ ル人モナシ/k120