十訓抄 第六 忠直を存ずべき事 ====== 6の24 およそ攘災はかりごと信力には過ぐべからず・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== およそ、攘災、はかりごと、信力には過ぐべからず。千万の兵、大刀・鋒を捧げたりとも、そのせんなかるべし。 近くは、平家の侍に、難波三郎経房といふ者、福原より京へ上りける道にて、神に蹴られたりけるには、安芸前司能盛・越中前司盛俊((平盛俊))、同じくうちつれたりけれども、二人はことなかりけり。盛俊は馬ばかりを損じたりける。 経房、もとより仏神の行方も知らざりけり。太刀ぬきて、肩にかかげたりけり。けれども、しいだしたりけることもなかりけり。 ===== 翻刻 ===== 凡攘災ハカリコト信力ニハスクヘカラス、千万ノ兵大 刀鋒ヲ捧タリトモ其詮ナカルヘシ、 近ハ平家ノ侍ニ難波三郎経房ト云者福原ヨリ 京ヘ上リケル道ニテ、神ニケラレタリケルニハ安芸 前司能盛越中前司盛俊同打ツレタリケレトモ、二 人ハ事ナカリケリ、盛俊ハ馬斗ヲ損タリケル、経房 モトヨリ仏神ノ行方モ不知ケリ、太刀ヌキテ肩ニカ カケタリケリケレトモ、シ出タリケル事モナカリケ リ、/k79