十訓抄 第五 朋友を撰ぶべき事 ====== 5の12 また数寄者なればとて一筋に愛で近付くべきにあらず・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、数寄者(すきもの)なればとて、一筋に愛で近付くべきにあらず。 これも『大和物語』(([[:text:yamato:u_yamato103|『大和物語』103段参照]]))に、武蔵守なる人の娘、洞院の后の女房にて候ひけるが、髪・形けうらなる若人(わかうど)にて、人あまたけ懸想しけれども、夫などもせで、思ひあがりたりけるを、平中((平貞文))、あながちにいひければ、あひにけるほどに、思はずにつらかりければ、歎きけるを、「『いとあだにものし給ふ』と聞きし人にしも、ありありて、かくなむ」と、わが思ふことを、使ひ人の言ふを聞きて、いと心憂かりけるままに、尼になりて、その髪の切れを少し包みて((底本「つつして」。諸本により訂正。))、男のもとへ遣るとて、この歌を加へたりける、   あまの川空なるものと聞きしかどわが目の前の涙なりけり かかれば、女はよく進み、退き、身のほどを案ずべし。すべて父母のはからひに随(したが)ふべきなり。われとし出だしつることは、いかにも悔しきかた多かりとなん。 ===== 翻刻 ===== 又スキモノナレハトテ、一筋ニメテチカツクヘキニア ラス、是モ大和物語ニ武蔵守ナル人ノ娘洞院 后ノ女房ニテ候ケルカ、カミカタチケウラナルワカ/k17 人ニテ人アマタケサウシケレトモ、夫ナトモセテ 思アカリタリケルヲ、平中アナカチニ云ケレハ、相 ニケルホトニ、思ハスニツラカリケレハ、ナケキケル ヲ、イトアタニモノシ給トキキシ人ニシモ有々テ カクナムトワカオモフ事ヲ、ツカヒ人ノ云ヲ聞テ イト心ウカリケルママニ、尼ニナリテ、ソノカミノ 切レヲ少シツツシテ男ノモトヘヤルトテ、此哥ヲ 加ヘタリケル、 アマノカハソラナルモノトキキシカト、ワカメノマヘ ノナミタナリケリ、 カカレハ女ハヨクススミシリソキ身ノホトヲ案ス/k18 ヘシ、スヘテ父母ノ斗ニ随ヘキ也ワレトシ出シツル 事ハ争ニモクヤシキカタオホカリトナン/k19