十訓抄 第五 朋友を撰ぶべき事 ====== 5の9 大和物語には昔大納言なりける人の御門に奉らんとて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 『大和物語』((『大和物語』155段))には、 昔、大納言なりける人の、「御門に奉らん」とて、かしづきける女を、内舎人なるものの取りて、陸奥国(みちのくに)にいにけり。 安積の郡安積山に庵結びて住みけるほどに、男の外へ行きたりけるままに、立ち出でて、山の井に形を映して見るに、ありしにもあらずなりける影を恥ぢて、   安積山影さへ見ゆる山の井のあさくは人を思ふものかは と木に書き付けて、みづからはかなくなりにけり。 と記せり。 ===== 翻刻 ===== 九大和物語ニハ昔大納言ナリケル人ノ、御門ニ奉ラント テカシツキケル女ヲ、内舎人ナルモノノトリテ、ミチ ノ国ニイニケリ、アサカノ郡アサカ山ニイホリ ムスヒテ住ケル程ニ男ノ外ヘ行タリケルママ/k15 ニ立出テ、山ノ井ニ形ヲウツシテ見ニ、アリシニ モ非スナリケルカケヲハチテ、 アサカ山カケサヘミユル山ノ井ノ、アサクハ人ヲ 思フモノカハ ト木ニカキツケテ、ミツカラハカナクナリニケリト シルセリ、/k16