十訓抄 第四 人の上を誡むべき事 ====== 4の18 一条天皇の御時四納言と聞こえし人々寄合て蹴鞠会ありけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 一条天皇の御時、四納言((藤原斉信・藤原公任・源俊賢・藤原行成))と聞こえし人々、寄合て蹴鞠会ありけるに、懸(かか)りの外(と)に鞠の落ちてありけるを、その中に、公任卿、「この鞠を大臣・大将の子ならざらむ人、取るべし」と言はれたりければ、行成卿、申されける、「短命こそくちをしけれ。少将、生きたらましかば、三公の位をば嫌はれざらまし」とのたまひたりけり。 これを、公任卿の非愛なるにてぞありける。 かの行成は摂政伊尹公((藤原伊尹))の御子、少将義孝((藤原義孝))の御子なり。短命にして、とく失せたまひければ、大臣・大将にのぼらず。それを思はへて、公任卿、申さるるか。 ===== 翻刻 ===== 一条天皇御時四納言ト聞エシ人々寄合テ、蹴鞠/k171 会有ケルニ、カカリノトニ、マリノ落テ有ケルヲ、其中 ニ公任卿此鞠ヲ大臣大将ノ子ナラサラム人トルヘシ ト云レタリケレハ、行成卿申サレケル、短命コソ口惜ケ レ、少将生タラマシカハ、三公ノ位ヲハキラハレサラマシ トノ給タリケリ、是ヲ公任卿ノ非愛ナルニテソ有ケ ル、彼行成ハ摂政伊尹公ノ御子少将義孝ノ御 子也、短命ニシテトク失タマヒケレハ、大臣大将ニノホ ラス、ソレヲ思ハヘテ公任卿申サルル歟/k172