十訓抄 第四 人の上を誡むべき事 ====== 4の13 良暹が歌にまくり手といふことを詠めりけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 良暹が歌に、「まくり手」といふことを詠めりけるに、住吉神主国基((津守国基))、「『まくり手』といふことやはある」と難じければ、「『やしほの衣まくり手にして』とあり。いかん」。国基いはく、「僻事(ひがごと)なり。紅に、『まふりて』といふことあり。それを書き誤れるなり」と言ふ。 良暹、しばらく案じて、「古歌に、   風越(かざこし)の峰より下るる賤(しづ)の男(を)が木曽の麻衣まくり手にして と侍るは、これも『まふり手』を誤てるか」と言ふ。国基、言ふことなし。 ===== 翻刻 ===== 良暹カ哥ニ、マクリテト云事ヲ読リケルニ、住吉神 主国基マクリ手ト云事ヤハ有ト難シケレハ、ヤシホノ 衣マクリ手ニシテト有如何国基云ク、僻事也紅/k164 ニマフリテト云事有、ソレヲ書アヤマレル也ト云、良暹 暫ク案シテ、古哥ニ、 風コシノ峰ヨリオルル賤ノヲカ木曽ノ麻衣マクリテニシテ ト侍ルハ、是モマフリ手ヲアヤマテルカト云、国基云事 ナシ、/k165