十訓抄 第四 人の上を誡むべき事 ====== 4の10 後江相公登省の時詩に両音を平声に用ゐたりけるを・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 後江相公((大江朝綱))、登省の時、詩に両音を平声に用ゐたりけるを、時の博士たち、落第に処しければ、相公、微音に、   鶴飛千里未離地 といふ天神の御作を詠じけれども、なほなほ聞き入れざれは、「さりとも、菅丞相の仰せられしことも、聞きおきて侍るなり」とありければ、延喜聖主((醍醐天皇))、聞こしめして、「諸儒の才智いかなりとも、菅丞相に及ぶべからず。早く及第すべき」よし、勅定を下されしかば、その時、博士ども、声を飲みてやみにけり。 ===== 翻刻 ===== 後江相公登省ノ時詩ニ両音ヲ平声ニ用タリケ ルヲ、時ノ博士達落第ニ処シケレハ、相公微音ニ鶴飛 千里未離地ト云天神ノ御作ヲ詠シケレトモ猶 猶聞入レサレハ、サリトモ菅丞相ノ被仰シ事モ聞置テ 侍也ト有ケレハ、延喜聖主聞召テ、諸儒ノ才智イカナ リトモ菅丞相ニ及ヘカラス、早ク及第スヘキヨシ勅定 ヲ下サレシカハ、其時博士共声ヲ飲テ止ニケリ、/k162