十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の33 宇治殿少年の時俊賢卿と花盛りに北山辺に遊覧し給ひけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 宇治殿((藤原頼通))少年の時、俊賢卿((源俊賢))と、花盛りに北山辺に遊覧し給ひけるに、ある堂の中に人々入らむとしけるを、俊賢、入らずしていはく、「このほど、北方塞(ふた)がらず。もし、穢気もこそあれ」と言ひて、下人を入れて見するに、中門の廊下の前に車を立てたり。死人の入りたりけり。 「御堂の内へ入らましかば、触穢ありなまし」と自讃せられけり。 ===== 翻刻 ===== 宇治殿少年の時、俊賢卿と花さかりに北山辺に遊覧 し給けるに或堂の中に人々入らむとしけるを、俊賢入ら すして云く、此程北方ふたからす若穢気もこそあれと 云て、下人を入てみするに、中門の廊下の前に車をた/k67 てたり死人の入たりけり、御堂の内へ入ましかは触穢 有なましと自讃せられけり、/k68